原作者・西尾維新インタビュー

今回の『終物語』のアニメ化が決定したことの感想をお聞かせください。

西尾
2013年に<物語>シリーズ セカンドシーズンというかたちで『猫物語(白)』から『恋物語』までをTVシリーズ化していただきまして、その後『花物語』『憑物語』をスペシャル版としてアニメ化していただきました。今回、2年ぶりになる、四度目のTVシリーズ。また楽しい時間がはじまるぞ、副音声(BD/DVD収録のキャラクターコメンタリー)の脚本が書けるぞ!という気持ちです。原作となる「終物語」を執筆中の時点では、当然アニメ化するとは決まっていませんでしたから。どんな風にアニメ化していただけるのか楽しみでした。とくに「終物語(上)」には新キャラクター・老倉育が登場しています。彼女がどんなふうに描かれるのかがすごく気になっています。

原作『終物語』というタイトルに込めた意味をお聞かせください。

西尾
僕はどの小説も最後の一冊のつもりで書いています。基本的に「最新刊でシリーズは完結する」し、同時に「その最新刊からシリーズを読んでいただいてもかまわない」というスタンスなのです。とくに<物語>シリーズは「新刊こそが最終巻」という傾向が強いと思っています。そもそもは「メフィスト」(講談社の文芸誌)で『化物語』の短編3作(「ひたぎクラブ」「まよいマイマイ」「するがモンキー」)を掲載したところで、同誌が1年間休刊することになりまして、そこで『化物語』を終える可能性もありました。『化物語』の単行本が上下巻で刊行されたときは、そこで終えても良いと考えていましたし、その後『傷物語』が刊行されたときは<物語>シリーズ2部作と謳っていましたからね。<物語>シリーズ セカンドシーズンだけはタイトルを先行して発表した分、全作を書き切らねばいけないという責任感がありましたが……。今回の『終物語』は上巻でシリーズが終わっていても良いと思っていたところ、幸いにも『終物語(中)(下)』を書かせていただく機会を得ました。<物語>シリーズは、そうやって続いてきたシリーズなのです。今でこそ時系列が明確になってきていて、<物語>シリーズ公式サイトで年表「阿良々木暦 高校生活 最後の1年」を作って頂いたりもしていますが、『終物語』から読む、『傷物語』から読む、あるいはその巻その巻を、シリーズではなく単体で読みはじめるからこそ受け取ることができるものもあるはずで。そういう独特な読書体験も<物語>シリーズでは重要かもしれないと思っています。

原作『終物語』のコピーは「もう一度、100%趣味で書きました」というものでした。これは原作『化物語』のあとがきで西尾先生が語っていた「100%趣味で書きました」を思い出させるものがありますね。

西尾
『猫物語(黒)』、あるいは<物語>シリーズ セカンドシーズンは、アニメ『化物語』がオンエアされたのちに執筆されたものでした。アニメ『化物語』を拝見して、アニメ版の大ファンになり、アニメと並走していくためにも、ここで各キャラクターを掘り下げていこうと考えて、セカンドシーズンを書き始めたんです。そのセカンドシーズンを完結させたあとは、やはり阿良々木暦というキャラクターに迫ろうと考えました。そこで『憑物語』『終物語』『暦物語』は原点に返ろうと、『化物語』「ひたぎクラブ」を書いていた頃のニュアンスに近いものになっています。セカンドシーズンでは楽しい話が多かったのですが、『憑物語』から重い話が多くなっています。阿良々木くんに「お前浮かれてんじゃねーぞ」と、新キャラクターの老倉育が現れるというわけですね。老倉育は、初期の戦場ヶ原ひたぎと背負っているものが近いと思っています。阿良々木暦の根っこを探っていくキャラクターです。

原作『終物語』「おうぎフォーミュラ」の発表は「別冊少年マガジン」(2013年10月号)でした。そのときは「(忍野扇から)読者への挑戦状」が付くといった古き良きミステリーを感じさせる仕掛けがたくさんありました。『終物語』をミステリーという新機軸に挑戦した理由は何だったのでしょうか。

西尾
「おうぎフォーミュラ」のミステリー色が強くなったのは、それが西尾の原点だからかもしれません。「読者への挑戦状」は「別冊少年マガジン」さんに掲載していただくということで、当時、いろいろと考えたんです。まんが雑誌にあれだけの文量の小説を掲載許可してくださった「別冊少年マガジン」編集部の懐の広さに感謝しています。

「おうぎフォーミュラ」はクラスメイトが40人近くが登場するという、まさに驚きの内容でした。この展開はどんな経緯で生まれたものなのでしょうか。

西尾
<物語>シリーズは、前作までと逆のことを書いてみる、という傾向が強いんですね。これまで<物語>シリーズは阿良々木くんとヒロイン、阿良々木くんと誰か、というように少人数の会話劇で書いてきたシリーズでした。その反動もありまして、「なぜ阿良々木くんの視野がそんなに狭くなったのか」を書くときに、一度クラスメイト全員を書いてみようと考えたんです。クラスメイト全員を書くことができるのか、という課題に挑みたくなったんですね。制作秘話になるんですが、最初に設定を考えた時点では、老倉育がここまでのキャラクターになるとは思ってもいませんでした。

原作「おうぎフォーミュラ」執筆中は、老倉育以外がヒロインになる可能性もあったということでしょうか?

西尾
老倉さんは育ちましたね。その名の通り。「おうぎフォーミュラ」なので、ヒロインは扇ちゃんです。「そだちリドル」と「そだちロスト」は、老倉さんが勝ち取った(?)二本です。

<物語>シリーズを執筆するときにアニメ化を意識することはありますか。

西尾
最高のアニメを作っていただけるプレッシャーを、常に感じています。アニメがあれほど素晴らしいのに、原作がもの足りないものであってはならないと、心掛けています。

『終物語』第1話のご感想をお聞かせください。

西尾
素晴らしかったですね。「クラスメイト40人の映像化」。いままでの<物語>シリーズでも「この場面は映像化できないだろう」と思うシーンがいくつもあったんですね。「目に見えない怪異をどう描くのか」ということであったり、「ずっと妹と話しているだけのシーンをどう演出するのか」ということであったり、忍野扇のような「得体の知れないキャラクター」をどう描くのかというのも映像化が難しいことのひとつだったと思います。今回の「クラスメイト40人をどうヴィジュアル化するのか」というのも、それらと並ぶ、新たなる問題でしたが、しかし、アニメ版は、それらの問題を常に一番スタイリッシュな方法で映像化してきたんですよね。もともと小説というのは映像にしにくいものだと思うのですが、妥協の演出を一切しない、ここはこうやって見せたらかっこいい、と常に難しい選択をされている。そこにいつも驚かされています。

<物語>シリーズはこれまで6年にかけて62話制作されました。西尾先生にとって、この6年間はどんな経験でしたか。

西尾
あらためて<物語>シリーズを読み返すと、いかに<物語>シリーズがアニメとともに歩んできたのかを実感します。このタイミングでアニメ化がなされた、あるいはこのタイミングで副音声を書いた、ということを思い起こすと、意外なつながりが見えてくるんですね。たとえばアニメ『化物語』の「つばさキャット」のアフレコを見たことが、原作『猫物語(黒)』につながっていくんだなとか。直近の例を挙げるとするならば、この10月に<物語>シリーズ オフシーズンと題しまして最新刊『愚物語』が発売されましたが、この中ではアニメ『終物語』の新キャラクターである老倉育がフィーチャーされています。実は『愚物語』の老倉育の短編は、アニメ『終物語』の収録を聞いてから書いています。実際に声(老倉育役は井上麻里奈が担当)を聞くことで「老倉さん、怖いな……」と(笑)。人気が出てほしいと思っていますが、アニメに登場して大丈夫なやつなのか? と心配してしまいました(笑)。

『傷物語』の劇場公開がついに発表されました。どんなところを楽しみにしています。

西尾
『傷物語』については僕もまだ知らない情報がたくさんありますので、今後の発表を楽しみにしています。まあ、原作の<物語>シリーズが完結しているので、原作者はだいぶ気が楽ですね(笑)。ただし、シリーズが完結したとはいえ、完結したからこそ書けるものがあります。まずはオフシーズンの第二弾『業物語』の執筆に、取り組もうと思っています。

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